七つ道具 [GBA]
校正(校閲)の作業のうち、三校の赤字引き合わせをするときに私が使う道具。
三校というのは…という説明をすると長くなるので省略します(^_^;)
校正=赤ペンというイメージが一般には流布していると思われますが、
赤ペン以外もよく使っています。
赤字引き合わせのときは、左側に赤字の入ったゲラ(A)、
右側に赤字の通り印刷所が直して印刷しなおしたゲラ(B)を並べて、
左右、左右と赤字の通りにちゃんと直っているかを確認します。
左手には青鉛筆、右手には赤ペンを持って、
(A)に赤い字で記入してある訂正箇所を確認したら、青鉛筆でチェック、
もし直し間違い、直しもれなどがあれば、(B)に赤ペンで訂正の指示を記入します。
これが赤字の引き合わせの基本的作業。
あと、これは一般的なやり方というわけではありませんが、
訂正の種類?によって、赤ペンの色を変えることもあります。
文字の訂正ではなくて、ルビの付け方の訂正の場合など。
ルビには肩付き、中付き、均等割りなど付け方の種類があるのですが、
その付け方を変える場合、例えば「田舎」のルビが「田」に「いな」、「舎」に「か」と付いていた場合、
「田舎」に対して均等に間隔をあけて「いなか」と付けるように指示を書きます。
これは「田舎」はこの二文字に対して「いなか」と読むのであって、
「田」には「いな」という読みはなく、「舎」に「か」という読みはないためです。
この場合、肩付きになっているルビを均等割りにするという指示を書くのに、
普通の赤字と区別して、濃いピンクのペンを使って校正記号を書いたり、「均等割りに」と書いたりします。
そしてそれを目立たせるために、青色の芯のシャープペンシルで「均等割りに」の文字を丸く囲みます。
印刷所では赤字で書かれた指示だけを直し、鉛筆で書かれたものは無視することになっているので、
直してほしい部分は赤ないし赤っぽい色で記入し、補助的な記入は青色で書くことにしています。
出版社や編集者によって多少違いはあると思いますが、赤字→直す、というのが基本です。
写真には蛍光マーカーペンも写っていますが、
これは同じ字を同じように直す箇所がたくさんある場合に使います。
たとえばあるページに出てくる「虫の触覚」という言葉をすべて「虫の触角」に直したいとき、
「覚」の字すべてにマーカーを引き、
ページの上に赤字で「このマーカーで印をつけた箇所は『角』に直してください」と指示を書きます。
さらに、なにか気になった箇所があれば、シャープペンシル(鉛筆)で、
「ここはこうでいいですか?」とか「ここはこうじゃありませんか?」とか、
著者や編集者に対する質問を書いたりします。
質問したい箇所が長い場合は、短い定規を使って線を引いて示したりも。
そして自分の書いた質問を消すとき(とてもよくある)使うのが消しゴムですが、
広い部分を消すには普通の消しゴム、狭い部分を消すにはペン型の消しゴムです。
自分でもがっくりしますが、道具の中で消しゴムを一番よく使ってる気がします。
はじめ疑問に思ったことでも、あとまで読むと疑問が解決しちゃうってこと、多いんですよね。
あとは赤字が(B)に入ったら、そのページに付箋をたて、
疑問を書いたページには別の色の付箋をたてます。
紙をたくさんめくるので、メクールという紙めくり用クリーム(丸い緑の)を使っています。
これで写っている道具の説明が全部できたかな?
使っているのは赤ペンだけじゃないのよ、という説明をさらっとするつもりが、
長くなってしまい、しかも説明は不十分ですみません。
さて、校正(校閲)に関する別の話。
『本の雑誌』の2013年9月号の特集は、
「いま校正・校閲はどうなっておるのか!」でした。
久しぶりにその『本の雑誌』の特集を読んでみて、「ギクッ」とか「ヒヤッ」とかしたのです。
以下の引用は、「校正・校閲担当者座談会」の一部です。
井 そう。検閲だと思ってる人がいますけど、とんでもない、サポートなんですよね。
フリーの方で時々文章の添削をしたがる人がいるんです。
我々としては元の形をなるべく崩さないで疑問を提示しようとしているのに、
全部こういうふうにしたほうがわかりやすいんじゃないかと書かれても、それは困る。
関 文芸だったらなおさらそうですよね。恐れを知らない行為ですよ。
井 若い作者だったら言葉遣いを間違いがちだから、
これはこうなんだと指摘することもありますけど、
その作者の美点というか、持ち味を殺さないようにするのが難しい。
正しい言葉遣い通りに直したとしても、急にそこで文章の流れが変わっちゃったりしますから。
その作者のいいところを世の中に出したいから作ってるのに本末転倒になってしまう。
関 著者が自己表現してるところに踏みこんで荒らすようなことはしちゃいけない。
控えめというのは校正者にとって非常に大切な資質ですよね。
井は井上孝夫さん(新潮社)で、関は関佳彦さん(早川書房)です。
「添削をしたがる人」って、私もそうかもしれないな。
わかりにくい文章に出合った時、1字や2字の「てにをは」の修正だけですっきりするならいいけれど、
文章自体を大きく変えないとわからないんじゃないかなーと思う場合、
こう直しては?と少し長めの文章を提案したりすることがあります。
「この文章はかくかくしかじかで、わかりにくいのではないでしょうか?」と簡単に説明できるといいのですが、
それが簡単に説明できない場合に、「たとえばこういう文章にすれば…」という提案になったりします。
文章は著者自身のものなので、決して「こういうふうに直してください」という指示をしているわけではなく、
その提案した文章から、校正者が感じた問題を理解していただければと思って書くのですが、
時にはそれが、僭越な口出しととられることもあります。
逆に、提案した文章がまるまる採用されてしまうこともあり、
それはそれで著者のオリジナリティはいいのかと、問題に感じたりもするのですが。
文芸作品の場合、どこまでが間違いで、どこからが著者による自由な表現なのかという線引きが
難しいなーと日々思いつつ仕事をしているのですが、「恐れを知らない行為」と言われると、
ついちぢこまってしまいそうになります。
「控えめというのは校正者にとって非常に大切な資質」とおっしゃっていますが、
校正・校閲に限って言えば、私は全然「控えめ」じゃないので、
もしかして向いてない…?と思わなくもありません。
でもまあ、ほかにできることもなし、悩みながらも仕事を続けています。
〈おまけ・私が見つけた誤字〉
1.角速度ωを求め手見ましょう。
2.カボション カボはラテン語の頭(カボ)辛き貞ます。
ウェブサイト上の文章ってWikipediaを含め、誤字脱字がホント多いですよね。
校正をしていないからでしょうけど、誤字脱字があると内容の真偽も疑わしくなります。
ブログの文章の場合は正確性を求められているわけではないと思うので、
自分でもそんなに慎重には書きませんが、お金をもらってやる仕事であれば、
できる限り信頼できる資料にあたるようにしています。
でも上の2つの文章を読んだときは、一瞬意味がわからず、
わかったら可笑しくなってしまいました(^^)
あとから見直してみて…
なぜこんなに長い文章になってしまったのだろう?
しつこい性格だから?
やれやれ。
by はてみ (2013-12-01 13:28)
本日はお疲れ様でした^^
またお会い出来る事を楽しみにしております!
by 銀狼 (2013-12-02 01:55)
メクール、昔使ってましたが、今は指サックだなぁ。
『本の雑誌』、昔読んでたなぁ。
校正、たいへんな仕事だと思います。何度やっても間違いが残ってしまうこともままあるし。特に自分で書いたものを自分で校正するのはいけませんねぇ、思い込んじゃってるから。
おまけ…角度を求めたら手を見ろってか(笑)。からきていますって、すごい誤字だこと。
by キタノオドリコ (2013-12-02 06:52)
しつこいのって時に大切だと思うんだ。
by ゴーパ1号 (2013-12-02 11:00)
昨晩は、ありがとうございました。
また素敵なひと時を、ご一緒できるのを、楽しみにしてます(^ー^)ノ
by 駅員3 (2013-12-02 13:23)
おいらの名前 田舎と同じく
二文字の漢字にヒラガナ三文字
均等割りにしないとです アテジだから…
昨日はありがとうでした!
楽しかったです♪また遊んでくださいね
by ねこじたん (2013-12-02 17:00)
北村薫さんの「六の宮の姫君」に、ピンセットとルーペが出て来たので、それも七つ道具に入るのかと思っていましたが、あれは普通の校正の話ではなかったですね…
「検閲はこれをしてはならない」と、憲法にも書かれているのに、校正を検閲と思う人がいるとは、何とも面白い話です。
展覧会の図録には、小さな紙の正誤表が、殆どと言っていい程の頻度ではさみこまれています。製作期間や費用の問題もあるのでしょうが、見る度に些かがっかりします。
今回の記事は、本好きには、とても興味深い内容でした。もっと長い文章でも、良いとさえ思います。
恐らく、校正の仕事は、しつこい位に突き詰めて行かないと、完成しない仕事なのでしょうね。何だか、そう感じました。
誤字の例の内、特に2の方は、もの凄い誤変換ですね~
尤も、ブログのコメントを送信した後で、妙な誤変換に気付いて、直すこともあるので、僕も充分に気を付けねばなりませんが…
by albireo (2013-12-02 22:10)
誤字脱字…書く機会が減り、スマホで調べている、おっぺけです。
先日はお疲れさま&ありがとさまでございます♪
同い年ということで嬉しかったです!
by すぅ〜(*´`*) (2013-12-02 23:27)
昨日は有難うございました^^)
ほとんどお話できませんで(汗)
懲りずにまたお願い致します☆
by 獏 (2013-12-02 23:45)
日曜日はお疲れさまでした
あまりというかほとんどお話してなかったですが(汗)
またよろしくお願いします♪
by kazya (2013-12-03 00:03)
昨日はありがとうございました(*´∀`*)ノ
また会える日を楽しみにしています☆
by kyoro (2013-12-03 00:38)
先日は 有難うございました
ほんの少しだけ お話しできましたが
また機会が ありましたら
宜しくお願いします(^^ゞ
by DON (2013-12-03 07:20)
日曜日はお世話になりました。
お陰様でとても楽しかったです♬
また次の機会を楽しみにしております!!
by まこ (2013-12-03 16:14)
日曜日はありがとうございました♪
またお会いできるのを楽しみにしています(*^^*)
by だいず (2013-12-04 00:45)
>12/1のオフ会でお会いしたみなさまへ
先日はどうもありがとうございました。
大勢で飲むことは(仕事以外)めったにないので、とても楽しかったです。
初めての方に読んでいただくにはとっつきにくい記事が最新で、
どうもスミマセン(^_^;)
>キタノオドリコさん
昔、指サックを使ったら指先が蒸れたので
それ以来敬遠しているのですが、蒸れませんか?
メクールはいちいち何度も付けなきゃいけないという問題はありますが。
校正者が自分の文章を校正しても、やっぱり見落としますね~。
>ゴーパ1号さん
ときどき自分のしつこさがいやになることもありますが(^_^;)
>ねこじたんさん
海豚をイルカ、蒲公英をタンポポ、氷柱をつらら、
まるでクイズみたいな読みもあるね~。
>albireoさん
この時は使いませんでしたが、仕事中ルーペも使いますね。
くっついてちゃいけないところが、くっついてるか離れてるか
確認するためにとか。
展覧会の図版ってどういう人が校正しているのでしょう?
>すうちんさん
私も字を忘れて、スマホで確認することあります~。
by はてみ (2013-12-05 12:58)
じっくりと読ませていただいて 校正というお仕事の大変さがわかりました。
私には絶対無理なことも^^
勢いで書いたものが 読み返しておかしいと思っても 一字でも直してしまうと伝えたいニュアンスが違ってしまったりと難しいですね。
変換に関しては 私はしょっちゅう間違ってしまって・・・恥ずかしい思いをしています^^;
by タックン (2013-12-05 20:44)
>タックンさん
大変というならば、きっとタックンさんのお仕事も、
どんなお仕事か漠然とイメージするだけですが、
たぶん私にはかなり難しいことだろうと思えますよ^^
文章には勢いも大切で、正しく正しくと直したために、
伝えたかったことがあいまいになってしまう…なんてこともあると思います。
そういうときは多少の乱れを気にするより、勢いを生かした方がいいこともあるのでしょう。
by はてみ (2013-12-05 23:33)